一昨日、渋谷で「嵐が丘」を見た後、有楽町に移動し、丸の内TOEIで今井正監督の「米」を見てきました。
丸の内TOEIは1960年に開館して以来、丸の内の映画文化を支え続けてきましたが、ビルの老朽化に伴い今月7/27に閉館するそうです。
そのため5月から「さよなら丸の内TOEI」という閉館イベントが開催されており、往年の名作から近年のヒット作まで、ヤクザものやアニメを含む多彩なジャンルの100を超える作品が上映されています。
「米」もその一作品として上映されました。
marunouchi-toei-sayonara0727.jp
物語の舞台は、昭和30年ごろの茨城県の霞ヶ浦周辺の村々です。主に二軒の家族が描かれます。
一軒は、主人公の若者、次男(つぐお)の実家です。次男は工事現場の仕事が終わり、農業を営む実家に帰るものの、名前の通り次男であるため家業を継ぐことができません。このため霞ヶ浦でワカサギ漁を行う漁師の仲間に加えてもらいます。
もう一軒は、次男の村とは霞ヶ浦を挟んだ村の、千代という娘の家族です。千代の家には体が不自由な父親と小学生の弟がおり、母親と千代は、二人だけで朝はウナギ漁、昼間は田で野良仕事と、朝から晩まで働き詰めの生活をおくっています。
この映画では、次男のように、貧しさから抜け出せる将来を思い描けない若者たちが、諦めながらも、酒を飲んで騒いだり喧嘩をしたり、若い女性を目当てに近隣の村に忍び込んだり、恋愛をしたりと、若いエネルギーを発散させる姿が生き生きと描かれます。
一方で、千代の家庭のように、働けど働けど楽にならないどころか、借りている田の返却を地主から執拗に迫られ、窮乏の末に禁止されている刺し網漁に手を出した母親が警察の取り締まりに遭い、生きる術を失って絶望に打ちひしがれる姿も描かれます。
どちらも、現代ではなかなか想像できませんが、昭和の貧しい農村の実態だったのでしょう。
次男と千代は、お互いに恋心を抱き、輝く霞ヶ浦を背景に喜びに満ちた時を過ごします。若者の恋愛は不思議なもので、見ているこちらにも「これで全てが上手くいくのでは?」と、明るさや希望を感じさせてくれます。しかし、現実はそんなに甘くはありません・・。
このように、この映画では貧しい村の人々の生活が、まるでドキュメンタリー作品のようにとてもリアルに描かれていました。私は、縁があって今は茨城県に住んでいますが、茨城にも戦後はこんな時期があったのかと、とても興味深く驚きながら見ました。
この映画では、田植えであったり、ワカサギ漁であったり、豊作や豊漁を祈る祭りであったりと、当時の霞ヶ浦周辺の人々の営みが、丁寧に、かつ生命力豊かに描かれています。
特に、20艘ぐらいの帆引き船が、朝日できらめく霞ヶ浦で漁を行うシーンはとても美しかったです。行方市では、現在も観光客を乗せる帆引き船がありますが、元は帆引き船による独特の漁が行われていたことを、この映画を見て初めて知りました。
物語は決して明るくありませんが、霞ヶ浦の自然、そしてその自然の中で懸命に生きる人々の姿がとても素朴で美しく感じました。


有楽町の丸の内TOEI。

ポスターには、寄せ書きのように多くの映画関係者のサインが書かれていました。