行人日記@はてな

昼の休みに今日見る雲も 頼りない雲 流れ雲

「人間の條件」

映画「人間の條件」を見て来ました。3部構成の約10時間に及ぶ長編映画です。

私は30代前半にこの映画「人間の條件」をDVDで見、そして同時期に小説「大地の子」を読み、この二つの作品を通じて敗戦後の満州での悲劇を知って大変なショックを受けました。

以来、この「人間の條件」を映画館で見たいと思い続けていましたが、今回横浜シネマリンで全作を一挙公開するというので、有給を取って泊まりがけで見て来ました。

(先日見た「黒川の女たち」も、この「人間の條件」で描かれた、敗戦後の満州での日本人女性の悲劇が強く印象に残っていて、それで見に行きました)

以下、感想です。ネタバレ有りです。

※少しややこしいですが、原作が6部構成であるため、映画の第一部のサブタイトルが「第一部、第二部」、第二部が「第三部、第四部」、第三部が「完結篇 第五部、第六部」となっています。

第一部純愛篇、第二部激怒篇

舞台は第二次大戦中の満州の炭鉱、主人公は仲代達矢が演じる、炭鉱会社の社員である「梶」です。

梶は大柄で屈強な青年ですが、大学卒のインテリでもあり、「植民地の工人も人間らしく待遇することで生産性が上がる」と主張する、ヒューマニズム精神や正義感がとても強く、左派的な思想にも共感を覚えている男です。

しかし、梶が着任した炭鉱では、満人(占領前から満州に住んでいた中国人や朝鮮人)の工人を、日本人が恫喝と暴力で支配していました。梶は古参の社員と大きな軋轢を生みながら、満人の労働環境の改善のため闘います。

特に、関東軍から特殊工人(捕虜の満人。民間人だが交戦地域に住んでいたため捕虜とされた)が労働者として送り込まれてからは、梶は満人を人間として扱うために、会社の同僚だけではなく関東軍にも抵抗します。

大体のあらすじはこんな感じです。

少し話がずれますが、上に書いた「黒川の女たち」では、満州の日本人を「加害者でもあり被害者でもある」と表現していました。

つまり、満州の日本人開拓団は敗戦後、武装化した満人のために悲劇的な犠牲を強いられますが、それは戦時中、満人の犠牲のうえに生活を築いたためであり、満州の日本人には「一方的な被害者」は存在しませんでした。

梶も同じであり、満人のために必死に闘っているとは言え、それは関東軍の武力に保護されながら、安全圏からヒューマニズムを主張しているだけとも言え、「自分だけは人間として正しくありたい」というエゴとも映ります。

この「第一部、第二部」は、そんな梶の矛盾と欺瞞、そして葛藤がテーマです。梶が「人間が人間である条件とは何か?」と、日本人と満人の双方から、極限の状況で問われる様子が描かれます。

▼描かれる主な被害 ※ネタバレ過ぎるのでクリックすると表示します。
・満人が、日本人の恫喝や暴力のもと、工人として使役された。
・特に特殊工人の満人は、非戦闘員であるにも関わらず捕虜とされ、強制的に使役された。
・炭鉱の近くに設置された慰安所で、満人の女性が売春させられた。
・強制使役から脱走を図った特殊工人が、関東軍により斬首された。

第三部望郷篇、第四部戦雲篇

ネタバレですが、前作で「自分が人間であるために」関東軍に抵抗した梶は、報復として関東軍に召集され、ソ連との国境に近い中隊に配属されます。この第三部は、関東軍の非道に満ちた内実がテーマです。

梶を始めとする初年兵らは、上級兵や古兵(先輩兵)から、しごき、いじめ、私的制裁を加えられます。特に、兵としての適正に欠き、メンタル的にも能力的にも劣る、田中邦衛演じる小原は、同じ初年兵からもいたぶられます。

梶は、訓練から脱落しそうになる小原を助けますが、一方で「これ以上は自分も脱落してしまうから」と小原を見捨てるなど、軍人としての非情さも見せるようになります。しかし、小原の行動により、心に大きな影を落とすこととなります。

そんな話です。

この第三部では、現代日本の組織や学校でも解消されずにいる、立場が弱い者、能力が劣っている者に対する、集団によるハラスメントが描かれています。再び戦争となれば、私たちは同じことを繰り返すのかもしれません。

▼描かれる主な被害 ※ネタバレ過ぎるのでクリックすると表示します。
・関東軍の初年兵が、集団によるしごき、いじめ、私的制裁を受けた。
・恥辱にまみれた初年兵は自殺した。
・自殺の原因は組織的に隠蔽された。


第四部では、小原の悲劇を重く受け止めた梶が、「軍隊」と「戦争」を強く否定し、新たな初年兵らに自分たちが受けたような暴行を行わず、人間らしく接します。一方でそれが面白くない古兵から、梶は初年兵に代わって激しい暴行を受けます。

そんな中、とうとうソ連が日ソ中立条約を破棄し、満州に侵攻してきます。梶らは、初めての実戦に赴きますが・・。

▼描かれる主な被害 ※ネタバレ過ぎるのでクリックすると表示します。
・関東軍内部の暴行。
・ソ連軍との交戦により双方の兵が死傷した(梶が属する中隊はほぼ全滅)。

完結篇 第五部死の脱出、第六部曠野の彷徨

第五部では、敗残兵となった梶たちが、自らが生き延びるために障害となるソ連兵や満人を殺害しながら、家族の元へとひたすら歩き続けます。そこにはもう、「被害者」や「加害者」どころか、ヒューマニズムもありません。

梶らはその行程で、満州から逃げようとする日本人避難民と出会い、彼らから頼られるままに同行を認めます。私はこの第五部こそが、満州における日本人の悲劇が凝縮されており、作中を通して最も悲惨だと思いました。

なお、梶らは最終的にはソ連軍に投降して捕虜となります。もともと左派的な思想に共感していた梶は、ソ連の理想に期待を抱きますが・・。

▼描かれる主な被害 ※ネタバレ過ぎるのでクリックすると表示します。
・満州国が崩壊し、大勢の日本人が満州を追われた。
・その逃避行は過酷であり、食料が乏しい中、避難民は衰弱し、赤ん坊や老人、女性が次々と力尽きて死んだ。
・ソ連軍のトラックから日本人女性が投げ捨てられて死んだ(おそらく複数のソ連兵に輪姦された)。
・日本の敗残兵により、日本の避難民女性が強姦され、殺害された。
・女性のみが残された日本人部落では、生きるために女性らがソ連兵に売春行為を余儀なくされた。
・日本の敗残兵とソ連兵や満人が交戦し、双方がら死傷者が出た。
・日本の敗残兵はソ連軍の捕虜とされ、過酷な労役に就かされた。
・捕虜の日本人同士でも軋轢があり、殺される者がいた。


第六部は、梶がソ連の捕虜収容所から脱走し、妻が待っていると信じる南満州に向かって、極寒の土地を、食料も無い中で歩き続けます。

▼描かれる主な被害 ※ネタバレ過ぎるのでクリックすると表示します。
・家族の元に向かう日本人が満州の大地で野垂れ死んだ。


この「人間の條件」は、上に書いたような被害、犠牲、そして悲劇が、おそらく実際に、満州のあちこちで誇張なく沢山発生していた歴史上の事実を伝えていると私は受け止めています。あまりにも悲しく、悲劇の大きさにとても胸が詰まりました。



横浜シネマリン。JR関内駅の北口から徒歩10分に満たない場所にあるミニシアターです。


プログラムはこんな感じ。途中2回の休憩時間を挟み、約10時間の一気見でした。覚悟はしていましたが、やっぱり体力的にツラかったです。


例によってエコノミークラス症候群が心配でしたので、上映中は頻繁に、周囲の人に気付かれないように足の運動を繰り返しました。


終映が22:40で、千葉市にも水戸市にも帰れませんから、翌日は有給休暇を取って近くのカプセルホテルに泊まりました。