
映画「ジェイコブス・ラダー」を見てきました。1990年の映画の4Kリマスターによるリバイバルです。
※【壮大なネタバレ】を含みますので、未見の方は読まない方がいいと思います。
舞台はニューヨーク。主人公のジェイコブは、ベトナム戦争で重傷を負ったものの、一命を取り留めて帰還した男性です。
彼は、ベトナム戦争のトラウマが頻繁にフラッシュバックするとともに、地球外生命体のような異形の存在に命を狙われるおかしな幻覚に苦しむ・・、そんな話です。
普通に考えれば、ベトナム戦争で負ったトラウマが、彼の精神を蝕んでおり正気と狂気の狭間で苦しんでいるように見えます。
しかしこの映画は、周囲の人間の言動もやや奇異であるなど、主人公の狂気だけでは説明できない、映画自体が誰かの夢であるかのような非現実感があります。
それでオチですが・・
【以下、ネタバレありです】
ネタバレの前に、この映画は下の3つの世界があります。
①ベトナム戦争で主人公が経験した世界
②ベトナム戦争前、主人公が妻と3人の息子と生活した世界
③ベトナム戦争後、主人公が離婚して新たなパートナーと二人で生活している世界
これらが錯綜して描かれているのがこの映画の特徴です。
例えば、②の世界では③が夢であり、③の世界では②が夢である。更に①は現実っぽいですがこれも現実では無い??など、まるで薬物の幻覚のように見る者を混乱させます。
では現実はなんだったのかと言うと、この映画は「ベトナム戦争で重傷を負った主人公が、死ぬまでに見た走馬灯」でした。つまり②③は現実ではなく「夢オチ」でした。
具体的には、米軍が極秘裏に開発した闘争心を高める幻覚剤を、ある大隊の兵士たちに、本人らには気付かれないように食事に混ぜて摂取させます。
その結果、薬物により凶暴化した兵士達が隊の中で同士討ちを始め、主人公のジェイコブは味方の米兵により腹を刺されて死んでしまいます。
この映画は、死に至るまでに彼が見た、薬物により混濁した幻覚めいた走馬灯であり、彼は「米軍の非人道的な試みの犠牲者だった」というオチです。
・・・
私はちょっと受け入れられなかったです。
ベトナム戦争では、米軍がBZと呼ばれる類似の薬物を米兵達に使用したという陰謀論があります。この映画でもBZに言及し、陰謀論をまことしやかに伝えることで作品の「怖さ」を演出しています。
私は、陰謀論に対しては慎重さが求められるにも関わらず、演出に利用するのは倫理的にどうなのだろう?と思いました。この映画が陰謀論の拡散に一役買っていたとしたら?と思うと複雑な気分です。
また、なんで「夢オチ」にしたの?という残念さを感じます。
この映画は、ベトナム戦争の帰還兵のトラウマを、薬物の幻覚のような、言葉にならない不安感を伴う描き方をしていて引き込まれますが、「それもこれも全部走馬灯だった」とチャラにされてしまうと・・。
観客の立場としては、「だったら何でもアリだよね」、「だったら見る必要すら無かったかも」、「ベトナム戦争のトラウマなら10年以上前に作られた『ディア・ハンター』の方がよっぽど悲惨で怖かった」という気分になってしまいました。
この映画は、サイコ・ホラーとしてとても高く評価する向きもあるようです。私はひねくれ者なのか、上に書いたように「でも全部夢なんでしょ?」と釈然としませんでした。
(補足)
「ジェイコブス・ラダー」というタイトルは、旧約聖書の「ヤコブの梯子」だそうです。
旧約聖書の「ヤコブの梯子」が天国に繋がる梯子であるのに対し、この映画では「死の世界へ昇る階段」として表現されています。
(備考)
シネマート新宿のスクリーン1、I列で見ました。たまたまガタイの大きな人が前に座っていて、スクリーンがほんの少しですが前の人の頭で隠れてしまったのが残念でした。