今日は休暇を取ったので、千葉市で「敵」を見てきました。
妻に先立たれ、一人で暮らす元大学教授の高齢男性が主人公です。
彼は規則正しい生活を好み、毎朝同じ時間に起床して一人分の食事を丁寧に作ります。そして日中は出版社から依頼された原稿を書いて過ごします。元教授といえど生活は細々としており、「貯金が底を付くまでどれぐらい時間が残っているだろう?」と考え、いよいよ「その時」が来たら自死することを決意しています。
物語は現実と夢が交互に描かれます。例えば、彼の家に訪ねてきた元教え子の女性と性的に結ばれたり、亡くなった妻と一緒に風呂に入りパリへの旅行を約束したりという夢を見ては、ハッと目を覚まし「なんだ、夢だったのか・・」という感じです。
(原作は筒井康隆ということですので、現実と夢が交錯し、読者が困惑させられる不思議な小説世界がイメージできるようでした)
そして物語の中盤あたりから、「敵が近付いて来ている」とする不穏なメールが彼の元に繰り返し届くようになります・・。
以下、ネタバレ有りです。
彼が見る夢は、上に書いたような人生で叶えられなかった欲望や願望であったり、罪悪感を抱き続けていたことなど、潜在意識に蓄積された人生の後悔や思い残しであり、それらが夢として、死が近付いてきた彼の意識の表層に表れて来ているように思えました。
私は昨年50歳になり、多少ではありますが人生の残り時間というものを意識するようになりました。分かりませんが、もしかしたらこの物語は、残り時間がわずかとなった高齢者の人生の後悔、死への恐れをテーマとした作品なのかもしれない、と思いました。
彼はある現実の出来事により貯金を大幅に目減りさせることになります。そうしてから、彼の見る夢は過激さや非現実さがエスカレートしていきます。まるで「その時」が間近に迫りつつあることによる焦りのように思いました。
そして「敵」ですが・・。
いよいよ「その時」がやってきて自死を決行しようとした時、「敵」のために土地を追われた難民が彼の家に押し寄せます。そして近所の住民たちが次々と「敵」に銃で撃たれて亡くなります。彼は庭の物置小屋に隠れますが、外から入る光や音はまるで戦時中のようです。
彼は「自分が母親のお腹にいた時に、激しい空襲に見舞われたらしい」と話していました。もしかしたら、幼い頃に母親から聞かされたその話が、恐怖の象徴として彼の心に植え付けられ、「敵」とはまさに、潜在意識に残り続けていた死の心象風景だったのかもしれません。
この映画は不可思議でとても読み解きづらいのですが、私には高齢者が死に至るまでの心の乱れを描いた作品のように思えました。
(備忘)
ユナイテッド・シネマ幕張のスクリーン4のE列で見ました。ややスクリーンに近い気がしましたので、F列やG列がちょうどいいかもしれません。ちなみにU-NEXTのポイントでタダで見てきました。